いい湯につかり、うまいもんを食わせてもらい、
拘束旅行を楽しんだ俺は、
家路に着こうとしていた。
新幹線の駅に着くと、
付き添いの人事の人が言った。
「僕は別の用でここに残らなくちゃいけない。(←別の拘束でも?)
改札までは見送るから。
もう春休みだし実家に帰るよね。」
帰るよね。とは同意を求める言い方だが、
彼の口調には有無を言わさぬものがあった。
もしかして怪しまれてる…?
そこでふと大きな問題に気づいた。
俺、明日の面接へ行くには右のホームだよな。
でも、実家に帰れということは、
左のホームに行かなくちゃいけないんじゃないの!?
いまはもう午後7時。
明日の面接は朝9時。
一度実家に帰って、なんて悠長なことはできない。
仕方ない、頑張るか。
覚悟を決めた俺は、
結局ホームまで見送りに来た人事の人に笑って手を振り、
実家に帰る新幹線に乗り込んだ。
次に止まるのは1時間後。
折り返しの新幹線はあるのか。
ここで1万円を超える出費は痛いなぁ。
そんなん車掌に聞きゃわかるし、
今後の人生のために1万くらいどーってことないだろ、
といまでこそ思うんだけど、
そのときは不安でいっぱいだった。
なにより、最後までプレッシャーをかけられたことが
不安をあおったのかもしれない。
念のため、
もし連絡があったら「戻ってるけどいない」と言うように、
と新幹線の中から実家に電話しておいた。
さすがにそこまではなかったみたいだけど。
狐と狸の化かしあい。
なんて間抜けなことに力を使ってるんだろう。
結局、その日自宅に着いたのは11時を回っていた。
あまりにもアホらしくなってしまい、
ここまできたら完全にギャフンと言わしてやろう、
と開き直っていた。
明日の最終面接、絶対通ってやる、と。