「今後、お前のところの大学からは今後一切取らんぞ!」
かっちーん。
なんだコイツラ。
思わず頭に血が上った。
「ちょっとそれおかしいんじゃないですか?」
「なんだと、お前!」
右に座ってた若手が俺の胸座を掴んだ。
俺も負けずにその手を振り払う。
一発食らうかと覚悟したけど、
そこは人事局長の言葉が間に入った。
「なにがおかしいのか言ってみなさい。」
俺は腹立ちが収まらず、一気にまくし立てた。
俺があなたたちに対して謝罪すべきことをしたのはわかる。
だから謝りにきてるんだし、俺に何を言ってくれてもかまわない。
でも、それと大学は関係ない。
後輩がどうなのかを俺で判断するなんてありえないでしょ。
そんな脅迫をするなんて、
卑怯だと思いませんか、と。
それを聞いたエライサンが、
顔を真っ赤にしながら口を開きかけたその時、
再び人事局長が言った。
「そのとおりだな。すまん。
大学の件は忘れてくれ。」
一同、沈黙。
重いヒトコトだった。
この局長はすごい人物だと思う。
自分の上司の言葉を否定する俺の言い分を、
論理が通っているからと認めたのだ。
上司の顔色を伺うような人では、こうはいかない。
この会社は、一部のこういう人でもっているんだろうなと思った。
それからエライサンはぷいっと帰ってしまい、
話は急激に収束した。
キミ一人の採用にこれだけのコストがかかってるんだよ、
などと説教はされたけど、
結局局長は俺の考えを尊重してくれた。
いま考えると、
局長はきっと、俺の
「ウソ」を見抜いていたんだと思う。
それも含めて俺の夢を理解してくれて、
しぶしぶながら認めてくれたんだろう。
この日、大好きな寿司を一口も食べることはなかった。
だけど、自分の主張を認めてもらえた満足感と、
放送局に行けるという安堵感で、
胸はいっぱいになっていた。
ただ、内定を辞退するということが、
いかに重いことなのかを思い知らされ、
素直に喜べない自分がいた。